ブラジル伝統武芸 カポエイラとは

カポエイラとは、ブラジル文化の一翼を担う極めてユニークな伝統的格闘技で、「格闘」「遊戯」「舞踊」という、ちょっと変わった要素の組み合わせで成り立っています。

w_c_1.jpgその動作は、逆立ちや宙返りをしたり大きく足を振り回したり、アクロバットか体操競技のように見える時があります。

そうかと思えば、四つん這いで地を這うように動き回ったり、空手の様に蹴りを出したりもします。

初心者が最初に教わる「ジンガ(基本のステップ、足運び)」はまるで楽しげに踊っているかのようです。

カポエイラを一言で表現するのは困難です。なぜならカポエイラはその成立において複雑なプロセスを辿っており、「格闘」「遊戯」「舞踊」の他にも様々な要素が絡み合っているからです。

カポエイラは労働力としてアフリカからブラジルへ連れ去られた黒人奴隷達の間で編み出された言われています。

彼らは自由を奪われ、自己の文化を掠奪され、単なる労働力として使役されることになります。

しかし、この非人道的で悲惨な扱いも彼らの心まで奪うことは出来ず、奴隷という境遇に落とされてもより良い人生や自由を渇望する人達が常に存在しました。

w_c_4.jpg彼らは自衛の為、僅かな喜びを見出す為、自らが受け継いだアフリカの伝統文化を元に様々な工夫を施し、やがて現在格闘技として伝えられるカポエイラの原型を編み出したのです。

従って、単なる格闘技や舞踊で括る事の出来ない実生活に即した総体的な文化、或いは学問の体系とも言えます。

また身を修める為の宗教的儀礼や哲学、教育的な側面も持っており、そういった意味では東洋に於ける「道」(柔道、剣道、書道、茶道などの"道")の概念に似ています。

その特徴は、特殊な楽器により奏でられる音楽(リズム)と、ジンガ(基本のステップ、足運び)に現れ、豊穣な精神文化、舞踊、格闘、美と喜びの表現などを含む独特なスタイルとして確立されています。

格闘技としての動作

カポエイラを知らない人達からすると実に奇妙な動作と思われることでしょう。普段の生活において、まず行わないであろう動きの連続です。実際の攻防は足での攻撃技が大部分を占め、手は防御や補助的動作に用いられることが一般的です。

ステップ

ジンガと呼ばれるカポエイラ独特のステップを用います。その動きは足の動作に留まらず、手、足、体幹部を強調させてリズムを刻みます。このしなやかで舞のような動作こそ、カポエイラの技全ての起点であり、最重要の技術と言えます。

攻撃技

w_c_2.jpg主に足による攻撃技で構成されます。手を使用することは稀です。

円運動による蹴り、直線的な蹴り、足払いも多用しますし、上級者になると頭の上から降ってくるような蹴りを使いこなすこともあります。

足以外には体全体で相手を崩す技法なども存在します。蹴りを放つ高さや角度は、フェイントを織り交ぜながら微妙に変化を持たせます。

防御技

相手の攻撃をよける時は手を使ったブロックよりも、体ごと移動して回避する方法が多く用いられます。

この回避にも、ステップ、しゃがみ、ジャンプ、回転など多彩な動作で対応します。また、回避のみに終始せず、回避から即座に攻撃に転じる高度な連続技法が編まれています。

攻防における駆け引き

カポエイラの組み手において相手を強打することは、特別な例外を除いてありません。(強さを求めるハードな練習も上級者の間で時として行われます)

相手に接触する寸前で、自在にコントロールできる余裕と協調性が重視されるのです。常に協調できるという事と、いつでも相手を崩せるという事は表裏一体と考えます。

また時として、意表を突いた動きや目線・表情の変化で相手の隙を誘うといった手段が使われます。自分の所作が相手にどのような行動を引き起こすか、このような駆け引きを楽しんでいるのです。

技術の要点

カポエイラには逆立ちや宙返りなどアクロバットのような動作が数多く含まれています。とても目を引く魅力的な動きですが、それがカポエイラの核心ではありません。

美しく派手な動作は上達の目安になり、また成功すれば自信も付き易いのというメリットがあります。従って、重要な技術であることも確かです。しかしカポエイラは体操競技と考え方が違います。

大切なのは常に有効な体の使い方を考え、タイミングや技を工夫する事です。カポエイラは体全体を使った会話と言えます。相手が出した技に、いつ、どのような技で応酬すれば有意義で美しい会話が成立するのかを突き詰めて表現します。

それがカポエイラの質を向上させる事に繋がります。体の柔軟性や体力不足から派手な動きが出来なかったとしても、今現在自分が出来る範囲で、最も有効な動作を活かして行くのがカポエイラの醍醐味です。

カポエイラの遊戯性

黒人奴隷は1日十数時間の重労働が課せられていて、常に死と隣り合わせの生活が続いていました。

そのような生活の中、苦しみの合間を縫い僅かなゆとりを満喫する為、様々な舞踊や宗教儀礼が執り行われます。

これらがカポエイラの原型に遊戯性を付加する役目を果たし、結果としてカポエイラは肉体的な防衛だけではなく、精神衛生保全の機能も併せ持つ事になりました。

w_c_3.jpg現在でもカポエイラの持つイメージには「ふざけ合う」「化かし合う」といった要素が含まれており、この遊戯性には、人との円滑なコミュニケーション能力や社会性を学ぶという効用があるとされています。

実際にブラジルでカポエイラがストリートチルドレンの更正手段として用いられているのも、このような効果が認められている事の証だと言えます。

"Jogo"(組み手)では、楽器が奏でるリズムに乗りながら、目まぐるしく変化する相手との距離や呼吸を計ります。そして常に2手、3手先を読みながら自分の置かれた状況で最適な技を繰り出して行くのです。

これは結果として相手との協調を見出し、素晴らしい"Jogo"(組み手)を共に作り上げる関係を生み出します。そこには他と協力して事を成したと言う爽快感とチェスや将棋のような頭脳ゲームの奥深い楽しみが充ちているのです。

カポエイラと音楽の関係

カポエイラと音楽は決して切り離すことが出来ません。とても密接な関係にあります。

前述の遊戯性と共通することですが、音楽は人の精神を鼓舞し高揚感をもたらす効果があります。

古くから疲れた心身を癒すための重要なツールでした。そして奴隷達の過酷な日常においてもまた、生き延びる為に欠かせない行為として活用されました。

また音楽を奏でることによって、格闘技としての危険なイメージを払拭し、抑圧者からカポエイラそのものを隠す役割があったとも言われています。

w_c_5.jpgカポエイラの練習では"Berimbau"(ベリンバウ)、"Pandeiro"(パンデイロ)、"Atabaque"(アタバケ)などの楽器の演奏に合わせ歌を歌います。この歌には童話や物語、訓話のような言葉を歌詞にしたもの、儀礼としての色合いが濃いもの等様々な曲が残されています。

手拍子、楽器、歌のリズムで技の緩急を変化させたり、指導者がアドリブで指図や注意を歌詞に割り込ませたりする事もあります。

もちろん技も全てアドリブですから、カポエイラを肉体と音楽の即興芸術と呼んでも過言ではないでしょう。